ウルスラの言葉

ああもう

いつの間にか

たくさん時間が経っている。


あれこれ迷うし

腕も拙いので、

私は制作に

ほんとに時間がかかる。


絵を描きたくなる瞬間は

たくさんあるのに

手も体力も追いつけないまま

時間はどんどん過ぎて行くのだ。


でも実は時間のかかる絵と

トントントトーンと

進む絵とがある。


描いていると

どこか向こう側から

「こっちだよー」って

声が聞こえるような時があって、

トトーンの絵は

素直に的確に

声の方向に進む事が出来た絵だ。


びっくりする程すんなりと

完成する。


的確な一歩を

無心に選べた時は

流れに乗っていけるという事

なのかもしれない。


だから制作する時は

その小さな声を逃さないように

声のする方に向かって

大事に一歩一歩進む。


でもその中の一歩が

間違っていた場合、

描き進めても

やがて行き詰まる。


描いてる途中から

声が止んで迷子になって

手が止まる。


どれだけもがいても

声のする道に戻れない。


どんなに手を動かしても

画面に何も見えなくなって

何も聞こえなくなっていく。


そんな時は手を止めて

その絵はひっくり返して

しばらく見ない。


焦る気持ちを一旦

放り投げて、

別な事をして

別な絵を描いて

忘れた頃にもう一度見てみる。


その時どう感じるかで

完全にやめるか

続けるかを決めている。


「魔女の宅急便」という

アニメを見て

身につまされた作家は

たくさんいるのでは

ないだろうか。


「魔法が弱くなってる...」

「大変!」

とスランプに怯えて

やみくもにほうきで飛び上がろうと

何度も試しては転げて

果てはほうきが折れてしまう

修行中の魔女キキ。


それは声のする方向を見失って

濁った画面の前で七転八倒する

私の姿そのものだ。


アニメでは画家のウルスラが

自分も同じような事があるよと

キキに話しかける。


「その時はどうするの?」

とすがるように

不安でいっぱいのキキは尋ねる。


ウルスラは「描くのをやめる」と

きっぱり言う。


「そのうちに

急に描きたくなるんだよ」


ウルスラの言葉は

スランプに落ちた

あらゆる分野の人に

響く言葉じゃないだろうか。


声を見失って

思いっきりジタバタした後は

ちょっと絵から離れて

ボカンとして

気持ちを散歩させようと

思っている。


必ず声は戻って来るから。


ウルスラの言う通り

「そのうちに急に」

「花片」2010年
20×32.3×3(cm)

これは一度声を見失ってから

時間を置いて、あらためて

向かい合った絵。


新たな気持ちで手が動いて

好きな状態で完成出来た。

嬉しかったです。


制作の時間をどうかけたのかは

それぞれの絵によって

全く違います。


毎回「トトーン」とは

行かないもので...


勉強が必要ですね。


この絵は東京千駄木の

ギャラリー KINGYOで

今開催中のグループ展

「夏至を過ぎて」に

展示されています。


会期は7/5(土)までです。


ご高覧いただけたら幸いです。