私が先生に最後に会ったのは
晩翠画廊という
仙台のギャラリーで行われた
先生の個展だった。
盛岡から
朝の高速バスで仙台に向かった。
画廊に着くと
たくさんの人に囲まれた
先生の姿があった。
先生は車椅子だった。
入院している病院から
外出許可をもらっての個展初日。
治療を繰り返しながら
少しずつ弱って来た先生の様子を
私も聞いていた。
それでも先生は
いつものように笑い、
会話の中にお得意の冗談やダジャレを差し込む事を忘れなかった。
まわりの人達は
いつものように笑った。
いつもと違うのは先生が
車椅子であるという事だけ
のように思えた。
確かに先生は弱々しく
辛そうにも見えたが、
画廊の中
自分の作品をぐるりと見て、
キャプションのちょっとした間違いに直ぐに気がつき、訂正を頼んでいた。

作品を見つめる先生の目は
変わらず鋭く光っていた。
午後になった。
先生の作品をゆっくり堪能して、
午前中からずっと画廊にいる私に
先生が声をかけた。
「オイ園子、お前〜...
腹減ってるんじゃないか?」
先生は朝からバスで駆けつけた
私のお腹の心配をしていた。
たくさんの人と挨拶や話を交わし、
会場の作品の一つ一つを
確かめる先生は、時折、
車椅子に身を預けるようにして、
ふーっと溜息をつく事もあった。
先生の方こそ疲れているはずなのに、私の心配をする。
「お昼食べてこーい」
「腹減るだろ」
「あ〜、ありがとうございます」
「じゃ、ちょこっと
行って来ますね」
笑顔で答え外を歩きながら
私は泣きたくなった。
先生が、体が辛そうなのに
あまりにも
いつも通りだったからだ。
いつものようにとぼけた笑顔で
暖かな優しさを
私に差し出してくれるから。
どんなに辛い状況でも
まわりに笑いと優しさをくれる。
小さな事に気がつく。
先生は、
繊細で強い人なのだ。
「繊細な人」というと
"神経質で
まわりに細やかな配慮を求める"
というイメージを持つ人もいるかもしれない。
だけど浅井先生という人は
まわりにこそ、とても細やかで
優しい配慮をする人だった。
本当に繊細な人というのは
優しい。
そして強い。

私は先生と石巻女子高等学校
(現・好文館)で出会い、
すれ違う学校の廊下で、
美術室の中で、
そして卒業後は
一緒にお酒を酌み交わしながら
この上なく幸せなお付き合いを
させて頂いた。
教えて頂いた事は計り知れない。
仙台でのひと時でさえこうなのだ。

石巻で開催される展覧会です。
10月1日にアップしたブログが
きっかけで、私も
参加させて頂く事になりました。
感謝です!幸せ。
久しぶりに先生の絵と一緒の空間に
作品を展示させてもらえます。
支えてくれているのは、
私と同じ学年で美術部で一緒だった
菅原節子さんです。
彼女と浅井先生との思い出も
いつかゆっくり聞いてみたい。
彼女はイタリアで修行した後、
日本でジュエリー作家として
活躍しています。