ばね指体験記(その3)

看護師さんのご案内のもと

さあいよいよ手術室へ。

 

以前、私の質問に

丁寧に答えてくれた先生が

手術用ガウンを来て

ニッコリ会釈してくれた。

 

手術台の上には

(おお!ドラマで見たことある)

というようなライト。

「じゃ、こちらに横になって

下さいね〜」と看護師さんに

優しくサポートされ

台の上に横たわる。

 

奥の部屋から

ちょっといかめしい顔した

先生が登場した。

この先生が執刀してくれて

ニッコリ会釈の先生は

助手として立ち合うようだ。

 

ヨード系の茶色い消毒液が

たっぷり浸された脱脂綿で

肘の上から指先まで

ジャバジャバ〜と濡らされる。

 

驚いたのが、その消毒液が

暖かい事だった。

そう言えば手術室の空気も

足元に掛けられてる毛布も

ちょうど良くほんのり暖かい。

 

身体や気持ちに余計な力が

入らない様に、温度にも

気を遣ってくれているのか。

 

肩のあたりで

布の目隠しがされたので

左腕から先は見えなくなった。

 

「それでは麻酔注射をします。

痛いですが、どうかここだけ

頑張って下さいね。」

 

(お、いよいよ始まるのね)と

気を引き締めようとしたその時、

なんと看護師さんが

手術しない方の

私の右手を両手で包んで

優しく握ってくれたのである。

 

(至れり尽くせりだ!)

(麻酔の痛みに耐える為

手を握ってくれる人まで

いるとは!)

 

感激のあまり麻酔注射の痛みなぞ

屁のカッパであった。

「顔色ひとつ変えませんね」

「すごいですね」と

助手の先生も看護師さんも

褒めて下さる。

不安だった分嬉しくて

調子に乗ってニタニタしてしまう。

 

感覚はあるが全く痛くない状態で

順調に手術は進む。

すると執刀医の先生が

ヒョイと左手を持ち上げ、

「どれ、関節動かしてみて下さい」

と言った。

 

(えー?!今もうここで?)

 

びっくりしたけど、私はすっかり

信頼と安心の中にいたので

言われるままにすぐに動かした。

 

スイスイ動く!

動くよ!

私の左手親指第一関節、復活です!

 

「動きますー!」

 

「うんよし!動くね」

 

丁寧に消毒液を拭いてもらい、

手を取られて手術台から降りる。

 

大事にされて褒められて

助けてもらって

ばね指の手術は終わった。

 

私は以前、指先に

結構な切り傷を負った事がある。

その時は傷の痛みに

一晩中悶え苦しんだ。

 

(麻酔が切れたらあの時みたいに

痛くて眠れないのかなぁ...)

なんて思っていたけれど

それが全然!大丈夫だった!

ちゃんと眠れた。

いやはやびっくり。

プロが切ってきれいに縫うと

こんなにも

痛くないものなのだろうか?

 

意外な事はまだあった。

術後3日以降は入浴出来る。

傷口を濡らしても構わない

というのである。

 

(お手入れの仕方参照)

そしてアルコール消毒はダメ。

「傷に対しては、

60年前の常識と

今は違ってきています」との事。

うぐぐ...しっかり私は

60年前の常識しか

ありませんでしたよ!


手術直後

約1ヶ月後

そして今、手術から1か月以上経って

もう絆創膏も取って暮らしている。

このまま大いに動かしながら

傷口とものんびり付き合って行こう

思ってる所です。


手術の後、丁寧に消毒液を拭き取っていた看護師さんの手が止まった。

私の左腕をまじまじ見て

「皮膚、荒れやすいですか?」

 

そこにある細かい傷跡は

私の膝の上で甘える時

腕をガジガジ甘噛みしていた

猫のしまの忘れ形見だった。

 

「特に荒れやすくはないです。

大丈夫です。」とだけ

言えば済んだのに、その傷跡を

見つけてくれた事が

嬉しかったのだろう。

 

つい

「亡くなった猫のつけたもので...」

と言ってしまった。

 

すると看護師さんは

「そうですか。

大切な傷跡なんですね。」

と言ってくれたのだ。

 

まるでもう一度、今度は心を

両手で包んでもらえたような

忘れられない言葉だった。